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遺言能力の判断基準とは?認知症の親の遺言の扱いに関して実例とともに解説!

遺言能力とは?

遺言を残すには、遺言を作成した時点で「遺言能力」を備えていることが必要です。

では、そもそも遺言能力とは何なんでしょうか?

遺言について定めている法律は「民法」となります。

その民法第963条によると、

「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」

と定められています。

簡単に言えば、遺言の内容を理解し、自分が亡くなったあとにどのようなことが起こるのかを判断できる意思能力があるということです。

年齢と遺言能力の考え方

では、遺言は何歳から書くことができるのでしょうか。

「15歳に達した者は、遺言することができる」(民法961条)としています。

つまり、15歳に達した者は、未成年者であったとしても意思能力があれば遺言を残すことができます。

しかし、15歳以上でも意思能力がない者の遺言は無効となります。

特に認知症を患っている高齢者の場合、遺言を作成した時点での判断能力がどの程度で、この遺言を自分の意思で作成したのかが意思能力の判断材料となることが多いです。

内閣府の平成28年度版高齢社会白書によると、2012年は65歳以上の高齢者の認知症患者数は462万人、有病率は約15%でした。2025年になると有病率は約20%に上昇し認知症患者数は約730万人になると言われ今後も認知症患者は増えていくと予想されています。

出典】内閣府:平成28年度版高齢社会白書(概要版)65歳以上の認知症患者数と有病率の将来推計

また、80歳前半では約2割、80代後半では約4割、90歳前半では約6割、95歳以上になると約8割の人が認知症になるとのデータがあります。

【参考】国立長寿医療研究センターもの忘れ研究センター「認知症はじめの一歩」より

長生きをすればするほど認知症になる確率が高くなり、認知症の症状やレベルによって判断能力や意思能力が衰えるリスクも同時に高くなると言えます。

遺言能力の判断基準と考慮されるポイント!

遺言能力があるのかないのかという判断は、非常に難しい問題です。絶対的な判断基準があるわけではありません。個々の事例によって異なるため、遺言者の状況を総合的に見て、遺言を作成した時点で遺言事項を判断する能力があったか否かを判断すべきであるとされています。

遺言能力を判断する際の要素

遺言者の年齢

年齢が高くなると老化現象として記憶力や判断力・理解力の低下がみられます。また、高齢になればなるほど認知症発症のリスクは高くなります。だからといって、高齢であることのみで、遺言能力が否定されるわけではありません。

遺言の内容

遺言の内容が簡単なもの(例えば、全財産を特定の相続人に相続させることなど)であれば、多少遺言者の判断能力が低下していても遺言能力があったと判断されやすくなります。

しかし、遺言内容が複雑な内容(例えば、複数の財産があり複数の相続人に分けて相続させる内容など)の場合は内容を理解しにくいということとなり、遺言能力はないと判断されやすくなると言えます。

病状を含む心身の状況および健康状態とその推移

認知症の診断があるというだけで遺言能力が否定されるわけではありません。

しかし、認知症の内容や認知症の程度はどのくらいなのか、それに加え、疾病の有無、精神的な障害の有無やその程度、精神鑑定や主治医等の診断等、遺言を作成したときの心身の状況や健康状態は重要な判断材料となります。

発病時と遺言時との時期的関係

認知症がいつ発症したのか、認知症の症状がいつから出て、認知症といつ診断されたのかなど発症の時系列は遺言能力があったかなかったの判断の材料となります。遺言作成が発症からかなり時間が経ってからだとしたら症状が進行していたのではと判断されやすくなります。

遺言作成に至った経緯や日頃の遺言についての意向

日頃から遺言の作成の意向があったのかなかったのか、遺言を作成するに至った経緯や動機・理由についても判断基準となります。遺言内容に照らし合わせて検討され、遺言の内容と整合しているかなど、内容に合理性があるか判断されます。

遺言者と受遺者との関係

遺言者と遺産を受け取る人との関係性についても判断されることとなります。例えば、同居をしていて遺言者の面倒を常日頃している者なら高額の遺産を取得させる動機があると言えるため、遺言能力はあると判断されやすくなりますが、反対に、ほとんど交流もなく関係も薄い者に突然多額の遺産を取得させるような遺言ならば、遺言者の動機が見られないとし、遺言能力はないと判断されやすくなります。

遺言能力は医師が診断できる?

遺言能力の有無は認知症が問題となります。

認知症と診断されていても認知症の程度によっては遺言作成は可能です。

しかし、遺言を作成してから実際に相続が発生するまでに時間を要した場合、この遺言書を作成した時期の認知症の有無や程度について争いの焦点となる場合があります。

遺言作成時に医師の診断を受ける、要介護の認定状況や介護状況を記録するなどの準備が必要です。

医師が認知症の進行度を測定する方法として「長谷川式簡易評価スケール」が利用されています。

遺言の無効訴訟でも、この長谷川式の評価点が示されています。

検査項目としては

・自己の見当識…「年齢を問う」

・時間に関する見当識…「年、月、日、曜日」

・場所に対する見当識…「ここはどこか」

・作業記憶…「3単語の直後再生」(関連のないもの、桜・猫・電車など)、「数字の逆唱」

・計算…(100引く7。そこからさらに7引く)および近時記憶の干渉課題

・近時記憶…「3単語の遅延再生」

・非言語性記銘…「5品の視覚的記銘」

・前頭葉機能…「野菜語想起」10種以上で正常。

質問に対する答えに点数を付けていき合計点数で評価します。

30点満点の20点以下で認知症の可能性が高まるとされています。

【認知症の重症度別の平均点】

・非認知症…24.3点

・軽度の認知症…平均19.1点

・中等度の認知症…平均15.4点

・高度の認知症…平均10.7点

・非常に高度…4.0点

となり、点数が低いほど認知症の程度は重度と判断されます。

また、点数以外にもどこの質問が答えにくかったかなどから認知症の種類がわかる場合もあります。

<参考>ウキペディア「長谷川式簡易評価スケール」

<出典>長谷川式簡易知能評価スケール

遺言能力の有無が疑われるときは、認知症の症状を判断できる病院で診断を受け診断書の作成をしておき、判断能力の程度がどうなのかを客観的に証明しておくことが必要です。

診断書の依頼は、かかりつけ医に相談されることをおすすめしています。

かかりつけ医に相談し認知症の診断ができない場合は、適切な医療機関を紹介してもらえるようにしましょう。

かかりつけの医師がいない場合や本人が受診をしたがらないときなどは、住んでいる地域の「地域包括支援センター」に相談することもできます。地域包括支援センターは、地域の高齢者の相談窓口です。生活や介護・医療に関する相談ができるため、認知症についてもアドバイスが受けられます。認知症サポート医などの医療情報を案内してくれるセンターもあるので活用してみて下さい。

もの忘れ外来や認知症疾患医療センターなど認知症の診察を専門としている医療機関も増えてきました。大学病院や総合病院などでは「精神科」や「神経内科」、「神経科」、「老年病内科」などの名称で検査や診察、治療を行っています。しかし、いきなり大きな病院に行ってもスムーズ見てもらえない場合もあるため、高齢になる前にかかりつけ医を見つけておくことも大切です。

利害関係のない医師より資料として診断書を取得しておくことは将来、相続発生時にトラブルにならないように予防することにも繋がります。しかし、トラブルとなり裁判となった場合には遺言書の効力について、遺言能力が問題になったときに最終的な判断を下すのは法律を専門とする裁判官となります。医師の診断書はあくまでも遺言能力の有無を判断する医学的意見となります。

遺言能力をめぐる実例を紹介!〜認知症編〜

遺言書が有効か無効か、証拠として用いられるのは、内科や精神科の入院、通院、訪問診療の医師のカルテ、要介護認定の認定調査票、主治医意見書、施設での介護記録等です。

東京地裁平成29年6月6日判決のケースで、遺言者が遺言を作成した当時の認知症の程度は初期から中等度程度であると認定した上で、遺言の内容が複雑であった等も考慮して公正証書遺言を無効とした事例があります。

遺言書を作成した3ヶ月前に行われた要介護認定申請における主治医意見書の内容が以下のような内容で判決に大きな影響を与えました。

・遺言者は平成18年頃にアルツハイマー型認知症を発症。

 記銘力障害を中心に入浴の拒否傾向や無目的行動、徘徊などの記載がある。

・日常生活自立度「J2」及び認知症高齢者日常生活自立度「Ⅱb」

「J2」…病気やケガで何らかの障害はあるが、日常生活はほぼ自立している。自力で外出ができるレベル。具体的には自宅から徒歩圏内で移動できる状態。

「Ⅱb」…日常的に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが家庭内で見られても誰かが注意していれば自立できる状態。具体的には、服薬管理ができない、留守番(電話対応や来客対応)ができない場合などがこのレベルに該当します。

・認知症の中核症状として、短期記憶は「問題あり」、日常の意思決定を行うための認知機能は、「いくらか困難」、自分の意思の伝達能力は「いくらか困難」の各欄にチェックが付いている。

・認知症の周辺症状として「徘徊」の欄にチェックが付いている。

障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)

厚生労働省 医師意見書記載の手引き

この裁判例は、上記の状態を前提とし、アルツハイマー型認知症を発症した平成18年頃からの遺言者の医療記録、介護認定記録より遺言者の認知症の状態や日常の異常行動について細かく認定しました。

また、遺言の内容が複雑だったこと、長谷川式簡易評価スケールも18点と認知症の症状は進行していたと判断され、遺言者は遺言作成当時遺言能力が欠けていたとして公正証書遺言を無効とする判決が言い渡されました。

主治医意見書の中にも記載される「認知症高齢者の日常生活自立度」は、認知症の高齢者にかかる介護の度合いを分類したものです。要介護認定のための訪問調査や看護記録、医療記録などの中でも使用され医療・介護現場で共通した判断基準として使用されています。

9段階(Ⅰ、Ⅱ、Ⅱa、Ⅱb、Ⅲ、Ⅲa、Ⅲb、Ⅳ、Ⅴ)の状態に分けられ、数字が大きくなるほど自立度は低くなり、日常支援や介護が必要となります。

遺言を作成する時点で介護の状態であれば遺言を作成する人が「認知症高齢者の日常生活自立度」がどのくらいのレベルなのかを知っておくことも大切な情報と言えます。

<参考>東京地裁平成29年6月6日公正証書遺言無効判例事例

まとめ

遺言にはいくつかの種類がありますが、高齢で認知症や遺言能力の有無を問われそうな場合は、公正証書遺言で作成をしましょう。公正証書遺言は、遺言者が公証役場に出向き(入院中や入所中の場合などは公証人が病院や施設まで出向いてくれます)証人2名を立ち会わせて遺言を作成します。

認知症の疑いなどがある場合は公証人から医師の診断書の提出を求められ、診断書から判断能力の有無を判断し公正証書遺言を作成します。

相続を「争族」にしないために遺言書を作成しておくことはとても大切です。

認知症と診断されていても認知症の程度によって遺言書の作成は可能です。

しかしながら、後から遺言を作成したことによって遺言が無効であると言われないために、あらかじめ第三者である専門家に相談しておくことが重要です。

相続の問題はとても複雑です。自分たちだけで解決することは争いの種を作ってしまうときもあります。困ったり悩んだりしたときは、「笑顔相続への道先案内人」の相続診断士へのご相談をおすすめします。

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