相続時に行う遺産分割協議とは?遺言書がある場合は認められるのか解説!

遺産相続

遺産分割協議とは?遺産分割協議を行う際の流れもチェック!

遺産分割協議とはどういうものか、そしてその協議を行う際の流れについて解説します。

遺産分割協議とは?

遺産分割協議とは、被相続人が残した財産(遺産)について、相続人の間で協議して具体的に分ける手続きです。

遺産分割とは、被相続人の死亡により包括的に共同相続人に承継され(民法896条本文、899条)、遺産共有に属することになった相続財産について(民法898条1項)、遺産共有関係を解消して、最終的な個別財産の帰属を決定するものです(民法909条)。

そして、遺産分割は、積極財産(プラスの財産)について分割を行うものです。

民法906条は、遺産共有状態にある相続財産を相続分に基づき分割するにあたり、考慮すべき点を示して分割の指針を定めています。

つまり、現物分割(民法258条2項1号)、代償分割(民法258条2項2号、家事事件手続法195条)、価格分割(民法258条3項、家事事件手続法194条)、共有分割(民法258条、258条の2)、配偶者居住権(民法1028条)などの遺産分割方法の選択のみならず、具体的にどの相続人にどの財産を割り当てるかなどという場面における一般的な基準を定めているのです。

遺産分割協議を行う際の流れもチェック!

遺産分割協議を行う際の流れは、以下のとおりです。チェックしてみましょう。

①遺言書の有無の確認

被相続人は、遺産分割方法の指定及び遺産分割の禁止をすることができるので(民法908条1項)、まず遺言書の有無を確認しなければなりません。

その場合、被相続人の遺言書があるかどうかについては、被相続人の自宅を捜すのはもちろん、銀行の貸金庫を調べるほか、自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度利用の有無を調べたり、公証役場の遺言検索システムによる調査依頼が必要になります。

なお、遺言書保管所に保管されている自筆証書遺言に係る遺言書及び公正証書遺言以外の遺言書が発見された場合は、家庭裁判所に検認の申立てをする必要があります(民法1004条1項)。

②相続人の範囲の確定

後述する戸籍関係の必要書類を収集して相続人を調査します。

法定相続情報一覧図の写しがない場合には、相続関係説明図を作成して、被相続人と相続人との関係を明らかにします。

相続人については、単純承認をするのか、限定承認をするのか、相続放棄をするのかを確認します(民法915条1項)。限定承認をしようとする者(民法924条)及び相続放棄をしようとする者(民法938条)は、家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません。

欠格事由のある相続人がいないかどうか(民法891条)、廃除された推定相続人がいないかどうか(民法892条、893条)も確認します。

以上の調査を経て、相続人の範囲を確定します。

③相続財産の範囲の確定

遺産分割の対象となる遺産は、実務上相続開始時に存在し、かつ遺産分割時にも存在する未分割の遺産をいうと解されています。

まず、被相続人の一身専属に属するもの(民法896条ただし書)及び祭祀財産(民法897条)は、相続財産に属さないので、遺産分割の対象から除かれます。

次に、被相続人が死亡時に有していた財産のうち、預貯金以外の可分債権(不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権、不当利得返還請求権、賃料請求権、報酬請求権、売買代金支払請求権等)、生命保険金請求権(相続人中の特定の者を保険金受取人と指定した場合や保険金受取人の未指定の場合)、死亡退職金、遺族給付金、相続債務、葬儀費用・遺産管理費用、代償財産及び金銭債務は遺産分割の対象から除かれます。

その上で、後述する資産関係の必要書類を収集して相続財産(遺産)を調査することになりますが、原則として以下のものが遺産分割対象の相続財産になります。

・不動産
・不動産賃借権
・共有持分権
・預貯金(債権)

以前の判例(最高裁判所判決昭和29.4.8民集8・4・819)は、金銭債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割される(可分債権として取り扱う)としていましたが、最高裁判所大法廷決定平成28.12.19民集70・8・2121は、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と判示し、判例を変更しました。

さらに、最高裁判所判決平成29.4.6裁判集民亊255・129は、定期預金及び定期積金につき、契約上その分割払戻しが制限されているとして、定期貯金と同様に「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」と判示しています。

・遺産分割前に処分された財産

これには、共同相続人全員の同意によって遺産分割時に存在するものとみなして遺産分割の対象財産とするもの(民法906条の2第1項)と、処分を行った共同相続人の同意がなくても、他の共同相続人の同意により遺産分割の対象財産とするもの(同第2項)があります。

・現金
・投資信託
・国債
・株式
・動産(民法86条2項は、不動産以外の物は、全て動産とするとしています)
自動車・船舶、貴金属、書画骨董・美術品などになります。
・知的財産権

以上の調査を経て、遺産目録を作成し、相続財産の範囲を確定します。

④相続財産の評価の確定

遺産分割は、不動産、預貯金、現金、株式、動産などから構成される総財産を具体的相続分に応じて、相続人に公平かつ適正に分配する手続きですから、その前提として、総財産の経済価値を評価する必要があります。

現物分割(遺産を現物で分割する)及び代償分割(特定の相続人が遺産を取得し、他の相続人に対して代償金を支払う)の場合には、他の遺産の取得や代償金の有無や金額の判断資料として、評価が必要になります。

他方、換価分割(遺産を売却等により換価して、その代金を分配する)及び共有分割(遺産の一部又は全部を具体的相続分による物権法上の共有取得とする)の場合には、基本的に評価は不要です。

そして、遺産評価の基準時は、実務上、遺産分割時(現実に分割する時点)によって異なります。

なお、特別受益、寄与分が問題となる場合は、相続開始時を基準として「みなし相続財産」を算出するので、遺産分割時に存在する相続財産については、遺産分割時の他に相続開始時の評価も必要になります。

預貯金や現金など評価額の明確なものは別にして、一般的に、その評価額、評価方法、評価の基準時などについては、当事者の合意が重視されています。

では、相続人間で上記の合意が得られない場合は、どのように評価すべきなのでしょうか。

不動産の評価を決める方法の例としては、固定資産税評価額、相続税評価額(いわゆる路線価)、地価公示価額及び不動産業者による査定額などがありますが、一般的には、宅地その他の土地の場合は、路線価方式(市街地的形態を形成する地域)、倍率方式(市街地以外の地域で固定資産税評価額に倍率を乗ずる方式)、また家屋の場合は、固定資産税評価額によるとされています。

なお、不動産の評価については、不動産業者の無料査定を参考にする方法も行われています。

以上の評価結果を踏まえ、遺産総額を確定します。

その後、特別受益(民法903条)や寄与分(民法904条の2)を評価して、法定相続分を修正し、各相続人の取得額を算出します。

⑤遺産分割の協議

相続人全員が参加して遺産分割協議を行います。

遺産分割協議の当事者となるのは、原則として、共同相続人ですが、包括受遺者(民法990条)や相続分の譲受人も遺産分割の当事者になります。

共同相続人の中に行方不明者がいる場合は、行方不明者のために、家庭裁判所に対して不在者財産管理人(民法25条)の選任の申立てをし、選任された不在者財産管理人がその行方不在者に代わって遺産分割協議に参加します。不在者財産管理人が遺産分割の協議を行うためには、家庭裁判所の許可が必要です(民法28条)。

共同相続人の中に未成年者がいる場合には、未成年者の法定代理人である親権者が、その子に代わって遺産分割協議に参加することになります(民法824条)。親権者と未成年者とが共に共同相続人である場合は、親権者と子において利益が相反することから、親権者はその子のために、家庭裁判所に対して、特別代理人の選任の申立てをする必要があります(民法826条1項)。

共同相続人の中に認知症などにより判断能力が十分でない人がいる場合には、判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があり、成年後見制度により選ばれた成年後見人(民法843条1項)、保佐人(民法876条の2第1項)又は補助人(民法876条の7第1項)がその相続人に代わって、遺産分割の協議に参加することになります。ただし、保佐人(民法876条の4)や補助人(民法876条の9)が遺産分割の協議を行うためには、遺産分割の協議をすることについての代理権を与える旨の審判を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

遺言執行者は、民法1013条1項の「相続財産の処分」の中に遺産分割協議も含まれることから、遺産分割協議に参加することができると解されます。

遺産分割の協議に参加した者は、遺産総額を踏まえ法定相続分を勘案し、遺産の分割を受ける者の取得額を算出するなどして、誰にどの財産を割り当てるかを協議して決めます

遺産分割協議書はなぜ必要?提出先も確認

遺産分割協議書はなぜ必要なのか、また同協議書をどこに提出するのかについて解説します。

遺産分割協議書はなぜ必要?

遺産分割協議書が作成されていれば、各種相続手続きの負担が軽減され、それぞれの手続きがしやすくなります。

また、遺産分割協議書があることによって、どの遺産が誰に割り当てられるのかが明確になり、相続人同士の争いを未然に防止することもできます。

そして、遺産分割協議書の作成が必要なケースについては、上記の点も含め後述するとおりです。

これらが、遺産分割協議書がなぜ必要なのかという理由になります。

遺産分割協議書の作成が必要のないケース

遺産分割協議書の作成が必要のないケースとしては、以下のような場合が考えられます。

①相続人が一人の場合

相続人が一人の場合には、その人が全ての遺産を相続するので、遺産分割を協議して遺産分割協議書を作成する必要がありません。

②遺言書によって遺産の分け方が決まっている場合

遺産分割は、遺産の分け方が決まっていない場合に行われますので、遺言書によって遺産の分け方が全て決まっている場合には、遺産分割を協議して遺産分割協議書を作成する必要がありません。

遺産分割協議書の作成が必要なケース

遺産分割協議書の作成が必要なケースとしては、以下のような場合が考えられます。

①遺言書に記載されていない遺産がある場合

遺言書に記載されていない遺産がある場合は、遺産分割が必要ですので、遺産分割を協議して遺産分割協議書を作成する必要があります。

②遺言書では遺産の分け方が決まっていない場合

遺言書があっても、遺産の分割が決まっていない場合には遺産分割が必要ですので、遺産分割を協議して遺産分割協議書を作成する必要があります。

③遺産の分け方が必要な場合

遺産の分け方には、一般的に、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割による方法があります。

遺産そのものを分ける現物分割が原則的方法ですが、相続人のうちの一人又は数人が遺産そのものを取得し、現物を取得した相続人がその他の相続人に代償金を支払う代償分割とする場合もあります。また、遺産を売却して、その代金を分割する換価分割としたり、遺産の全部又は一部を複数の相続人が共有で取得する共有分割とする場合もあります。

相続人の間でどの方法を選択するのか容易に決まらない場合には、遺産分割を協議して遺産分割協議書を作成する必要があります。

④遺産分割後の各種相続手続きが必要な場合

被相続人の死亡後には、各種の相続手続きが必要になります。遺産分割協議書を利用することにより、相続登記、被相続人名義の預金の払戻し、各種年金等手続き、保険金の請求、保険の名義変更、有価証券の名義変更、自動車の名義変更や相続税の申告などができます。

従って、遺産分割を協議した場合には、各種相続手続きに利用するためにも、遺産分割協議書を作成する必要があります。

⑤相続人の間で遺産をめぐり争いが起こるのを防ぐ必要がある場合

被相続人の死亡後には、どんなに仲の良かった相続人の間でも、遺産をめぐり後日争いが起こらないとも限りません。そのような争いが起こることを防ぐためには、遺産分割を協議した際に、遺産分割協議書を作成する必要があります。

遺産分割協議書の提出先も確認

被相続人名義の相続財産については、遺産分割協議書を提出して各種相続手続きを行います

遺産分割協議書の提出先は、以下のとおりですので、確認しましょう。

①不動産の名義変更(相続登記)・・法務局
②預貯金の名義変更・払戻し・・金融機関
③自動車の名義変更・・陸運支局(普通自動車)、軽自動車検査協会(軽自動車)
④有価証券の名義変更・・証券会社
⑤相続税の申告・・税務署

遺産分割協議書~必要書類と作成方法を解説~

遺産分割協議書とはどのようなもので、同協議書を作成する際にはどのような書類が必要なのか、そして同協議書の作成方法はどうなるのかについて解説します。

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、相続人の間で遺産分割を協議してまとまった結果を記載した書面です。

では、同協議書の作成に必要な書類と同協議書の作成方法を確認しましょう。

遺産分割協議書作成に必要な書類

遺産分割協議書の作成に必要な書類は、以下のとおりです。

戸籍関係

戸籍関係については、法定相続情報一覧図の写しがある場合とない場合に分けて検討します。

法定相続情報一覧図の写しの記載内容は、法務局ホームページに掲載されている記載例のとおりです。

①法定相続情報一覧図の写しがある場合

法定相続情報一覧図の写しがある場合には、特に補充すべき必要書類はありません

ただし、法定相続情報一覧図の写しに記載された相続人が亡くなっている場合は、その亡くなった相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸除籍謄本(取得先はその相続人の本籍地の市区町村役場)又はその相続人について作成した法定相続情報一覧図の写しが必要です。

②法定相続情報一覧図の写しがない場合

法定相続情報一覧図の写しがない場合には、以下の書類が必要です。

・被相続人(代襲相続がある場合には被代襲者を含む)の出生から亡くなるまでの連続した戸除籍謄本
・被相続人の住民票の除票(取得先は被相続人の最後の住所地の市区町村役場)
・相続人全員の現在の戸籍謄抄本(取得先は各相続人の本籍地の市区町村役場)
・相続人全員の住民票記載事項証明書(住民票の写し。取得先は各相続人の住所地の市区町村役場)
・被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合は、被相続人の父母の出生から亡くなるまでの連続した戸除籍謄本(取得先は被相続人の父母の本籍地の市区町村役場)

資産関係

資産関係については、以下の書類が必要です。

①登記事項証明書(登記簿謄本)
②不動産の固定資産評価証明書
③住宅地図、公図の写しなど、不動産の位置・形状等を示す書類
④建物の平面図
⑤借地権、借家権を証明する文書
⑥預金残高証明書又は通帳の必要部分(金融機関名・支店名・口座種別・口座番号・死亡日以降現在分まで)のコピー
⑦株式、社債、投資信託等の内容を示す文書

その他の書類関係

なお、以下の書類が必要になる場合もあります。

①相続人全員の印鑑証明書
②遺言書(作成されている場合)
③相続人の特別受益や寄与分に関する資料

作成方法

遺産分割協議書の作成方法は、以下のとおりです。

①表題を「遺産分割協議書」とします。

②同協議書の書式や様式には特にルールはないものの、一般的な例ではA4縦の用紙を利用し、紙質は長期保存ができる丈夫なものにします。文字は直接パソコンを使用して入力するか、又は黒インク、黒ボールペンで読みやすいようにはっきり書くようにします。

③遺産分割協議書に被相続人と同協議に参加した者を明記します。

被相続人については、最後の住所、最後の本籍、出生の年月日、死亡の年月日を記載します。
同協議の参加者は、末尾部分に作成年月日を書き入れ、その下欄に住所と氏名(署名の場合もある)を記載します。

その場合、相続人、包括受遺者、相続分の譲受人、不在者財産管理人、親権者、特別代理人、成年後見人、保佐人、補助人、遺言執行者のいずれの立場で参加したのかを明らかにするため、それぞれの氏名にその立場(相続人の場合は被相続人との続柄)を併記します。

④相続財産については、誰が、どの財産を、どれだけ取得するのかを具体的に記載します。

⑤相続財産の記載は、以下のようにします。

・不動産の表示は、登記事項証明書(登記簿謄本)のとおりにします。
・預貯金は、金融機関名・支店名・口座種別・口座番号を表記します。
・株式は、証券会社名、発行会社名、株式の種類、株式数を特定して記載します。
・自動車は、自動車検査証で確認して、自動車登録番号と車台番号を記載します。
・参加者全員が氏名下(又は署名)に押印し、印鑑証明書を添付します。
・書面が数ページになる場合は、参加者全員の契印(割印)が必要です。
・参加者全員分の写しを作成して、各自が1通ずつ所持します。

遺言書と異なる遺産分割協議はできる?判例も

遺言書と異なる遺産分割協議はできるのか、判例ではどう判断されているのかについて解説します。

遺言書と異なる遺産分割協議はできる?

遺言は、被相続人の死後に、相続人らに一定の効果が発生することを意図した法律行為です。

遺言は被相続人の相続人らに対する最終意思ですから、その意思は尊重されなければなりません。

従って、遺言書のある遺言は原則として、遺産分割協議に優先すると考えられます。

遺言書と異なる遺産分割協議ができない場合

以下のような場合は、遺言者である被相続人の意思を尊重して、遺言書と異なる遺産分割協議はできないと解されます。

①遺言書の執行により遺産の帰属が確定する場合

この場合は、遺産分割の対象となる遺産は存在せず、遺産分割の余地がないことになります。

②遺言書に形式的な不備が認められても、相続人らの関係者が遺言執行の相手方(法務局や金融機関)に執行が可能か否かを確認した結果、遺言による執行が認められる場合

この場合も、遺産分割の余地がないことになります。

③遺言書が全部包括遺贈の場合

積極・消極の財産を包括する相続財産の全部を受遺者に取得させようとする遺贈で、被相続人に属した権利のみならず義務を含めて遺産の100%が受遺者に承継されます(民法990条)。この場合は、遺産分割の対象となる遺産が存在しないので、受遺者に対する遺留分侵害額請求の問題となります。

④遺言書で全部包括して相続させる場合

この場合は、特定の相続人の相続分を100%とする指定となり、遺産分割の対象となる遺産が存在しないことになるので、遺産分割の余地がありません。

⑤遺言書で個々の遺産の分割実行を指示する遺産分割方法の指定の場合

この場合は、「甲にA遺産を、乙にB遺産を取得させる」と特定かつ具体的に指定するものです。これは、特定財産承継遺言(民法1014条2項)として遺産分割方法の指定であり、遺言の効力が生ずるとともに、特定財産の権利は当然に特定相続人に移転することになるので、遺産分割の余地がありません。

⑥遺言書で遺産の分割の方法の指定として特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる場合

この場合は、特定財産承継遺言(民法1014条2項)であり、直ちに当該相続人に相続により所有権が帰属することになるため、当該遺産は遺産分割の対象ではなくなるので、遺産分割の余地がありません。

⑦遺言書で遺産分割方法の指定として特定の遺産を特定の相続人に相続させるとされたが、特定の財産の価額が当該相続人の法定相続分を超える場合

この場合は、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言であり、その特定の遺産の価額は当該相続人の法定相続分を超えているため、相続分の指定を含む遺産分割方法の指定と解されます。
従って、当該相続人は特定遺産を取得することができ、当該遺産は遺産分割の対象ではなくなるので、遺産分割の余地がありません。

ただ、上記①ないし⑦の場合、遺言書と異なる遺産分割協議は無効となります。

他方、遺言書と異なる協議は、遺言によりいったん取得した各自の取得分を相続人の間で贈与又は交換的に譲渡する旨に遺言書を変更する合意を事後的にしたものということができるので、無効も解消することができ、その合意は有効と扱うのが相当であると解されます。

これらの場合、各種相続手続きにおいては、まず遺言書に沿って処理し、次いで事後的に有効な合意がなされたものとして、遺言書に沿って処理した事項を変更する処理をすることになります。

この処理は、あくまでも原則的な処理であって、相手方(法務局、金融機関、税務署など)が遺言書と異なる遺産分割協議をどう扱うかは別問題です。

また、特定遺産の相続人が所定の相続の放棄(民法938条)をし、受遺者が所定の遺贈の放棄(民法987条、990条)をした場合には、さかのぼって当該遺産がその者に相続(民法939条)や遺贈(民法990条)されなかったことになるので、当該遺産分割協議は有効なものになります。

なお、登記実務では、遺言書と異なる遺産分割協議をした場合、まず遺言に沿った相続登記をした上で、次に贈与又は交換を原因とする移転登記をする必要があるとされています。

さらに、税法上の取扱いは、特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当であるとしています。その上で、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなる(受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはならない)としています(国税庁ホームページ)。

遺言書と異なる遺産分割協議ができる場合

以下のような場合は、遺言書と異なる遺産分割協議ができることになります。

①遺言書に法律上の方式が具備されていない場合や共同遺言の場合

遺言は要式行為であり、共同遺言(民法975条)は禁止されているので、いずれの遺言も無効であり、遺産分割協議は可能となります。

②遺言書に記載されていない遺産がある場合や遺言書では遺産の分け方が決まっていない場合

いずれの場合も、遺産分割協議が必要になります。

③遺言書では相続分のみを指定している場合

この場合は、遺産の2分の1や3分の1など相続財産全体に対する分数的割合で示され、相続分の指定(民法902条1項)によって遺産共有の状態に変更を加えるものではなく、各相続人に対し、個々の相続財産に対する具体的権利を取得させる効果を有するものではないので、遺産分割協議が必要になります。

④遺言書では遺産の分割方法のみを指定している場合

この場合は、遺言で分割の方法(現物分割、代償分割、換価分割、共有分割のいずれか)が指定されただけであって(民法908条1項)、この指定によって当然に分割の効果が生じるものではありません。そのため、分割の効果が生じるためには、共同相続人の協議による分割がされなければならず、遺産分割協議を行う必要があります。

その他の場合

以下のような場合は、遺言書と異なる遺産分割協議ができるか否かは、民亊訴訟の結論次第ということになります。

①遺言の偽造が疑われる場合、遺言をした時点での遺言能力に問題があり、当事者の合意で解決することができない場合

これらの場合には、遺言無効確認等の民亊訴訟で有効か否かの結論が確定するのを待ち、遺言が有効であれば遺言書に従って相続手続きを進め、遺言が無効であれば遺産分割協議を行うことになります。

②遺言書では、いかなる分割方法を定めたのか趣旨不明で、当事者間にその解釈に争いがある場合

この場合は、民亊訴訟で確定させた後、その結論によって、遺言書に従い相続手続きを進めるか、遺産分割協議を行うかが決まります。

なお、遺言書の執行により遺留分権利者の遺留分を超える場合は、遺留分侵害額請求の問題として解決することになります。

判例も

最高裁判所の判例は、以下のとおり、特定財産承継遺言の場合には他の共同相続人もこの遺言に拘束され、遺産分割協議を行う余地はないとしています。

最高裁判所の判例

最高裁判所判決平成3.4.19民集45・4・477は、以下のように要約することができます。

つまり、①特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺産の分割の方法を定めた遺言である。

②しかも、他の共同相続人もそれに拘束され、これと異なる遺産分割の協議や審判をすることはできない。このような遺言は、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものである。

③遺言中で、相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど特段の事情が記載されていない限り、何らの行為も要せずに、被相続人の死亡時(遺言の効力発生時)に直ちにその遺産が当該特定の相続人に承継される

④もっとも、当該特定の相続人は相続を放棄する自由を有するから、その者が所定の相続の放棄をしたときは、さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんである。また、「相続させる」遺言は、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない

上記判例は、①特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言の解釈、及び②特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合における当該遺産の承継に関し、判示したものです。

そして、特定財産承継遺言の場合、被相続人の意思は尊重され、遺言は遺産分割協議に優先するとしています。

そうすると、上述した「遺言書と異なる遺産分割協議ができない場合」は、遺産の分割の方法を定めたケースですので、遺産分割の余地はなく、被相続人の死亡時(遺言の効力発生時)に直ちにその遺産が特定の相続人に承継されるのです。

なお、共同相続人全員の合意により、被相続人の遺産につき、「相続させる」遺言と異なる遺産分割協議をしたときに、当該分割合意には共同相続人間での贈与又は交換の合意が含まれていると解することは、上記の最高裁判所の判例と抵触するものではないといえます。

遺言書があっても遺産分割協議で分配されたケース

遺言書があっても遺産分割協議で分配されたケースとして、さいたま地方裁判所判決平成14.2.7があります。

同判決の要旨は、以下のとおりです。

つまり、①遺言と異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。

②法的には、一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるが、全相続人の協議による遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能である。

③従前から遺言があっても、全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたから、最高裁判所判決平成3.4.19が、相続人間において遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできない

④全相続人の間において、遺言と異なる分割協議がなされた場合、遺言に反する遺産分割を禁じている等の特段の事情や遺産分割に異議を述べる者がいない限り、本件遺産分割の効力を否定することはできない

しかし、さいたま地方裁判所判例も、上記の最高裁判所の判例と必ずしも矛盾するものではなく、特定財産承継遺言については、相続人全員による遺産分割方法の変更とすることで、「遺産の分割の方法を定めた遺言」と異なる遺産分割協議の無効も解消することができるとしていると解されます。

その上で、全相続人間で遺言と異なる遺産分割協議をした場合は、相続人間での贈与又は交換の合意が含まれているとしていると解されるのです。

遺産分割協議には期限がある?注意点もご紹介!

遺産分割に関する見直し

遺産分割については、法律上時間的な制限がないため、どんなに時間が経過した後であっても、何の不利益もなく遺産分割をすることができることから、遺産分割をしないまま放っておいても差し支えないとされてきました。

しかし、相続開始後遺産分割がないまま長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸し、関係者の記憶も薄れることにもなります。そして、長期間が経過すると、具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となる恐れがあったのです。

このようなことから、所有者不明土地等の「発生の予防」のために遺産分割を促進し、分割結果に応じた不動産の登記を確実に行っていくことが有用であると指摘され、この要請に基づき、民法904条の3が新設され、一定期間経過後の遺産分割における相続分に関する規定が置かれました

その規定によれば、「相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割」には特別受益(民法903条、904条)及び寄与分(民法904条の2)の規定は適用されません(民法904条の3本文)。つまり、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分又は指定相続分によることになります。

ただし、例外として、①相続開始時から10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求したとき(民法904条の3ただし書1号)又は②相続開始時から始まる10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求することができないやむを得ない事由(被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず、遺産分割請求をすることができなかったなど)が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6か月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき(同2号)は除かれ、特別受益、寄与分に基づく具体的相続分による遺産分割を行うことになります。

遺産分割には期限がある?

遺産分割そのものについては期間制限はありません

また、相続開始時から10年経過後は法定相続分又は指定相続分に従い遺産分割がされたとみなされるものでもありません。

そして、期間経過の前後を問わず、遺産の分割は民法906条以下に定める遺産分割手続きによります

また、10年の期間が経過し、法定相続分等による分割を求めることができるにも関わらず、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意したケースでは、具体的相続分による遺産分割が可能です。

遺産分割の禁止

遺産分割方法の指定及び遺産分割の禁止に関する民法908条に、共同相続人の合意による遺産分割の禁止(遺産分割禁止特約)に関する規定が加えられました(民法908条2項・3項)。

それに従い、共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部につき分割をしない旨の契約をすることができます。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができません。この契約は5年以内の期間を定めて更新することができますが、その期間の終期は相続開始時から10年を超えることができません。

また、従来から規定のあった家庭裁判所による遺産分割の禁止についても条文が整備されました(民法908条4項・5項)。その内容は遺産分割禁止特約と同様であり、家庭裁判所は特別の事由があるときは5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部につき分割を禁ずることができます

ただし、その期間の終期は、相続開始時から10年を超えることができません。また、家庭裁判所は、5年以内の期間を定めてこの期間を更新することができますが、その期間の終期は、相続開始時から10年を超えることができません。

改正法の施行日前に相続した場合の遺産分割の取扱い

遺産分割に関する改正のうち、期間経過後の遺産の分割における相続分(民法904条の3)及び遺産の分割の禁止(民法908条2項~5項)の規定については、経過規定が定められ、改正法施行日前に相続が開始した場合における遺産の分割についても、新法のルールが適用されます(改正法附則3条前段)。

なお、遺産分割の禁止規定の施行日は、公布の日(令和3年4月28日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日です(改正法附則1条)。

遺産分割協議における注意点もご紹介!

遺産分割協議を行う際には、以下の①ないし③の者が全員参加する必要があり、1人でも欠けている場合には、遺産分割協議が全部無効になるので、注意する必要があります。

なお、遺言書と異なる遺産分割協議が無効な場合でも、事後的に有効な合意として扱われることについては、上述したとおりです。

①遺産分割協議の参加者

・遺産分割の当事者となるのは、原則として、共同相続人ですが、包括受遺者(民法990条)や相続分の譲受人も遺産分割の当事者になります。

・相続人の中に意思能力や行為能力(財産上の有利不利を判断する能力)に問題がある当事者がいるときには、後見開始の申立てが必要になります。後見が開始している場合、成年後見人は法定代理人として遺産分割協議を行うことになります。

・任意後見の代理権目録に「遺産分割(協議、調停及び審判)及びこれに関連する一切の手続き(和解・調停合意を含む。)」の記載がある任意後見監督人は、法定代理人の地位に立ち、遺産分割協議を行うことになります。

・共同相続人の中に行方不明者がいる場合は、不在者財産管理人(民法25条)が行方不明者を含む共同相続人間での遺産分割協議を行うことになります。

・共同相続人の中に未成年者がいる場合には、親権者(民法824条)又は未成年後見人が未成年相続人の法定代理人として遺産分割協議を行うことになります。

②相続人の一部が当事者から漏れている場合や相続人の一部を除外した場合

相続人(遺産分割の当事者)が一人でも欠けている遺産分割協議は、全てが無効になります。

③当事者以外に遺産分割協議に参加する者

・特別代理人

共同相続人の中に未成年者がいて、親権者と未成年者とが共に共同相続人であり、親権者が未成年者の代理人として遺産分割協議を行う場合には、親権者と子において利益が相反するので、特別代理人の選任を要します(民法826条1項)。また、未成年者と未成年後見人、成年被後見人と成年後見人の間においても同様の問題があります。

・遺言執行者

遺言執行者は、遺言の内容を実現することを職務とし、その職務の中に遺産分割協議も含まれるから(民法1013条1項の「相続財産の処分」として)、遺産分割協議に参加することができると解されます。

なお、遺言で指定された遺言執行者(民法1006条1項)が遺産分割協議に参加する場合、それが当事者の立場なのか(通説)、利害関係人の立場なのかについては見解が分かれています。

④遺言書による遺産の分割禁止がないこと

被相続人は、遺言で相続開始の時から5年を超えない期間内において遺産の分割を禁ずることができます(民法908条1項)。

なお、分割禁止の遺言があるにも関わらず、遺産分割協議がされた場合の効力については、学説が分かれています。分割自由の原則から、共同相続人全員の合意があれば当該分割は有効であるとする見解と、有効としたのでは分割禁止遺言をした被相続人の意思が無視されるとして、当該分割は無効であるとしたうえで、第三者の保護は、民法94条2項(虚偽表示)・192条(即時取得)・478条(表見受領権者に対する弁済)ほか表見法理のもとで図られるべきとする見解があります。

分割禁止の遺言があるのに遺産分割協議がされた場合には、後日その効力が争われないとも限りませんので、専門家に相談するなど、注意するようにしましょう。

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この記事を監修したのは…

高橋 朋宏

経堂司法書士事務所 代表

高橋 朋宏(たかはし ともひろ)

平成16年度司法書士試験合格。
都内の事務所で実務を学び、平成18年に司法書士登録。
平成26年、創業30年の経堂司法書士事務所を事業承継し、代表に就任。
相続と不動産に強く、事務所を経営するかたわら、遺言について学ぶオンラインコミュニティ「ゆい友ルーム」を運営。著書、執筆、監修、メディア出演多数。「はしトモ」の名前でTwitterでの発信にも力を入れている。

サイトURL:https://www.souzoku-setagaya.jp/

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